12月29日 星と言葉
「天に星、地に泥棒、人は乞食。」と言ったのは、明治の天文学者野尻抱影だ。西洋と東洋を星空で結びつけることを志し、日本独自の星の歴史、民話を収集したことで知られる。意味を尋ねる記者に対し、
「星も泥棒も乞食も、手の中には何もないということですよ。そういう純粋無雑なものって、いまないでしょう?」
と答える。なんとも憎めない人柄をうかがい知ることが出来る。
星空に溶けこんで、そのままひとつになってしまいたいと思う時がある。今もそうだ。
遠くて、手は届きそうもなくて、それでいてたまらなく美しい。「人は死んだらお星様になるんだよ。」という言葉がふっと浮かんだ。そんなに簡単に、なれるものなのだろうか。
納得のいく文章という、とても漠然とした星を追っている。冒頭最初の一文は読者を引き込むものでなければ。読みやすく、理解しやすいものを。読み応えもあってほしい。理想ばかり、雪だるまのように膨らんでいる。星は、純粋無雑なものでなかったか。
「人間はなにかの仕事に打ち込んで、自分のすべてをそれに献げることによって、自分の生命をそれと交換する。その人間はやがて年老いて死ぬが、死ぬとき、その両手は星でいっぱいなのだ。」
という思想を示した。道程はなかなか険しそうだ。
虚飾の星じゃあいかにも侘しい。狙うなら当然、本物が良い。地に足をつけて、足元に気をつけつつ、1歩ずつ。時折天空の星を眺める眼差しを曇らせることなく生きていたい。
「一カ月に一度くらいは、自分が地球の上に乗って回っているんだということを思い出しなさいね。」
これも、野尻抱影の言葉である。